多くの医院で多くのスタッフさんと関わる中で、基本的には真面目で良い方ばかりだと感じています。
日々の診療に向き合い、患者さんのために努力している方がほとんどです。
ですが、その中で時折「あ、これは少し危険な入り口かもしれない」と感じる思考に出会うことがあります。
それは能力の問題ではなく、思考の癖の問題です。
本来であれば触れにくいテーマです。しかし離職や組織の停滞の起点になっているケースも少なくありません。
今日はその一つについて触れてみます。
さて、では何が危険なのでしょうか。

ズバリ、それは「前職との比較」です。
一度も転職したことがない人は稀だと思います。
全部とは言いませんが、以前の職場を辞めた背景には、何らかの違和感や不満があったはずです。
多くの場合、退職には何らかの理由があります。
しかし時間が経つと、その違和感は薄れ、良かった部分だけが残ります。
そして今の職場と比較が始まります。
これは自然な心理です。 ですが信頼関係という観点では注意が必要な思考です。

恋愛で言えば、別れた相手の良い部分だけを思い出すのと近い構造です。
「前はこうしてくれていた」と感じる、あの美化された感覚です。
「では前の職場に戻ればいいのでは?」と思いませんか?(私は思います)
しかし仕事になると、この比較はある程度のラインまでは、経験という言葉で正当化されます。
注意すべきは一定ラインを超えた場合。要は「比較しすぎ」「指摘しすぎ」と思われた場合。
その結果として、現在の環境の評価が歪みやすくなります。

誰にとっても100点の職場なんてものは存在しません。
そして、それはスタッフさんも同じです。100点の人間なんてどこにも存在しないんですね。
それにも関わらず過去を理想化し、現在を減点方式で見る
この思考は関係性のバランスを崩しやすい、非常に危険な思考です。
過去に囚われすぎてしまい、現在の努力や意図が見えにくくなってしまうんです。

更に注意したいのは、その思考が周囲に共有されることです。
「前の医院はこうだった」「普通はこうだ」といった言葉です。
一見すると経験の共有のように見えます。
それが正しく機能し、新しいエッセンスが加わるのならば素晴らしいことです。
しかし実際には聞いている側からすると、 「じゃあこの医院ってダメなんだ」と無意識に刷り込まれてしまいます。
本人は「良かれと思って」話していることが多いのですが、現在の組織の価値を相対的に下げ、本人ばかりか周りへ悪影響を及ぼすことが少なくありません。

愚痴で終わるなら影響は限定的かもしれません。
ですがそれが正しさとして語られたとき、空気が変わります。正しさ、つまり本人の中では正義なんです。
一番怖いのは、自分では悪いことをしている自覚がないことです。
むしろ医院を良くしてあげている、教えてあげている、とすら思っているケースが非常に多いんですね。
過去の成功体験が唯一の正解のように扱われ始めます。
「私の方が正しい」この感覚が過ちであり、ズレていることに気づかず、その結果、組織の軸が揺らぎます。

医院運営に絶対的な正解はありません。
院長の得意分野も、開業背景も、患者層も、地域も、何もかもが異なります。
同じ方法が常に通用するとは限りません。
変化に適応できない組織は停滞します。停滞はやがて不満を生みます。その不満は、やがて離職理由へと変わる可能性があります。
ただの比較が、組織崩壊の入り口になり得るんです。
信頼関係は過去ではなく、現在の関係性から作られます。(患者さんもそうですよね)

前職の正解ではなく、今の環境での最適解を探せるかどうか。
ここが組織が育つか停滞するかの分岐点になります。
わかりやすいので何度も言いますが、新しい恋人に「前の人はこうだった」と言ったところで、反発はあれど、うまくいくことは決してないですよね?恋愛では誰もが理解していることなのに、なぜか仕事になると同じことをしてしまう人がいます。
仕事の場合、内容によっては医院との信頼関係を大きく損ない、懲戒処分や法的問題へ発展するケースもあります。
ただ、この思考にさせているのは、実は医院自体であるケースも0ではありません。

歯科業界に限らず、「経験者募集」「即戦力求む!」のような募集の仕方をすると、場合によってはチーフ・リーダー経験者の雇用も見込めます。
しかしながら、「医院を良くしていってほしい」という言葉を履き違えてしまい、前職と比較し、指摘だらけになることがあります。
前職は前職、今の医院は今の医院です。
比較するために入職した訳でも、比較されるために採用した訳でもありません。
経験者だから任せるのではなく、最初に医院の価値観やルールをどこまで共有するか。実はここが抜けていると、後々崩れる可能性があります。
医院もスタッフも、まずはその原点を忘れないことが大切だと思います。

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