<スタッフが増えたらどうする?>
医院が成長拡大し、スタッフが増えてくると出てくるのが「スタッフルーム問題」です。
院内に十分なスペースがなく、近隣のマンションやテナントを借りて、そこをスタッフルームにする医院もあります。
広さを確保できる。
診療スペースを圧迫しない。
スタッフもゆっくり休憩できる。
一見すると、非常に合理的です。
ただ、私は「広くなったから良かった」で終わらせない方がいいと思っています。
スタッフルームは、単なる休憩場所ではないからです。
<別室にするメリットは大きいが…>
もちろん、スタッフルームを別室にすること自体が悪いわけではありません。
人数に対して十分なスペースを確保できる。
休憩中に患者さんの目を気にしなくていい。
仕事と休憩のオン・オフを切り替えやすい。
院内の限られたスペースを診療に使える。
スタッフ側からすると、快適になるケースも多いでしょう。
医院が大きくなれば、別室化せざるを得ない場合もあります。
だから問題なのは「別室にすること」ではありません。
考えるべきなのは、別室にした後の組織設計です。
<距離ができると何が起こるのか>
気をつけたいのが、物理的な距離です。
例えばスタッフルームが医院とは別の場所にあり、院長室は院内にある。
すると休憩時間になると、
「スタッフはスタッフだけ」
「院長は院長だけ」
という空間が自然に出来上がります。
もちろん、休憩時間まで院長と一緒にいる必要はありません。
ただ、この状態が毎日続くと、院長がスタッフ同士の会話や空気感に触れる機会は、どうしても減りやすくなります。
小さな変化に気づきにくくなるということです。
<不満は“正式な場”だけで生まれない>
組織の不満は、ミーティングで突然生まれるわけではありません。
「最近ちょっと忙しすぎない?」
「またルール変わったよね」
「これって院長どう考えてるんだろう?」
最初は、この程度の何気ない会話だったりします。
しかし、その場に事情を説明できる人がいなければ、
「私もそう思ってた」
「やっぱりみんな思ってるよね」
と、不安や不満が増幅していくことがあります。
事実そのものより、一つの解釈だけが共有され、それが『スタッフみんなの認識』になってしまうことの方が怖い場合もあります。
<院長に届く頃には大きくなっている>
院長とスタッフの距離がある組織で怖いのは、不満があることではありません。
不満が院長に届かないことです。
院長からすると、「そんなに不満があるなんて知らなかった」
スタッフからすると、「ずっとみんな言っていました」
唐突にこの認識のズレが起こります
そして院長に話が届いた頃には、すでに複数人の共通認識になっている。
場合によっては「相談」ではなく、「退職」という形で初めて表面化することもあります。
距離があるほど、早期発見の仕組みが重要になります。
<コミュニケーションが苦手だからこそ>
「スタッフとのコミュニケーションが苦手」
「何を話せばいいか分からない」
「だからスタッフルームは別の方が気楽」
そんな院長の気持ちも理解できます。
しかし、私はむしろ逆だと思っています。
コミュニケーションが得意でないからこそ、
接触回数・接触頻度・接触時間を意識することが重要です。
苦手だから距離を取るのではなく、苦手だからこそ『小さな接点』を増やす。
長く話す必要はありません。
短くても「日常的に関わっている状態」をつくることが大切です。
<院長もスタッフルームに行くべき?>
だからと言って、院長が毎日スタッフルームに入り、スタッフの会話に参加すればいいという話でもありません。
休憩時間はスタッフにとって、仕事から離れられる大切な時間です。
院長が常にいることで、
「気が休まらない」
「自由に話せない」
となれば、それも逆効果です。
必要なのは「監視」ではありません。
スタッフルームを近くすることでもありません。
大切なのは、距離があっても情報が分断されない状態をつくることです。
<別室なら“仕組み”で補う>
スタッフルームを別室にするのであれば、物理的な距離を組織の仕組みで補う必要があります。
例えば、
・定期的な1on1(個別面談)を行う。
・リーダーから現場の状況を共有してもらう。
・朝礼や終礼で意見を拾う。
・院長から変更の意図や背景まで説明する。
・スタッフが相談できるルートを明確にする。
特に大切なのは、不満が大きくなってから聞くのではなく、日常的に小さな違和感を拾える状態をつくること。
距離が遠くなるほど、コミュニケーションは「自然発生」に任せない方がいいと思います。
<チーフから共有された、そのとき>
「チーフ(リーダー)から現場の状況を共有してもらう」これは非常に大切です。
ただ、実際に管理職から、
「スタッフからこういう声が出ています」
「最近、こう感じている人が多いようです」
と共有されたとき、
「いやいや、それはこうだから!」
「それは違うでしょ!」
「あなたがもっとちゃんとしないから!」
「皆をまとめるのがチーフの仕事でしょ!」
と、まるでチーフ本人の意見であるかのように反論したり、責めてしまっていませんか?
これ、責める人を間違えています。
これを繰り返せば、チーフは当然ながら「もう言わない方がいいな」となります。
せっかく作った情報共有のルートを、自ら閉ざすことになってしまいます。
<情報を持ってきた人を詰めない>
チーフは、その意見に賛成しているから伝えているとは限りません。
現場で起きていることを、早期に院長に共有してくれているんです。
チーフから共有された内容に納得する必要はなく、「それは違う」と思うことがあっても当然です。
それでも、まずは、
「そういう声が出ているんだね」
「教えてくれてありがとう」
と受け取る。
“共有してくれたこと”と“その内容への評価”を分けること。
情報が上がってくる組織を作るなら、 「安心して情報を持ってこられる環境」まで設計する必要があります。
<「不満の多いスタッフルーム」が人を辞めさせる>
ここでもう一つ、考えておきたいことがあります。
医院への不満が日常的に飛び交うスタッフルームに、前向きに働いているスタッフや、新しく入ったスタッフが加わったらどうでしょうか。
最初は前向きに働いていたとしても、
「この医院ってそんなに悪いんだ」
「頑張っても意味がないのかな」
「私もいないところで何か言われているかも」
と感じるようになるかもしれません。
すると、モチベーションが下がるだけでなく、本来なら辞めなかった人まで早期退職する可能性があります。
そして、ここからが怖いところです。
<「採用しても退職」の負のループ>
スタッフが辞めれば、当然また採用します。
しかし、新しく入ったスタッフも同じ環境に入り、早期退職する。
すると医院は、
採用→教育→退職→また採用
を短期間で繰り返すことになります。
その負担を受けるのは既存スタッフです。
「また一から教えないといけない」
「人が足りなくて忙しい」
「どうせまた辞めるんじゃない?」
こうして既存スタッフの不平不満がさらに増え、その空気が次の新人にも伝わっていく。
人が辞めるから環境が悪くなり、環境が悪くなるから、さらに人が辞める。
この状態になると、採用だけを強化してもなかなか抜け出せません。
<近ければ安心、でもない>
では逆に、スタッフルームが院内にあり、院長室と近ければ安心なのか。
確かに、近いことによるメリットはあると思います。
院長室とスタッフルームが近ければ、
「院長に聞こえているかもしれない」
という意識が働き、過度な愚痴や不満に一定の抑制がかかる可能性もあります。
また、院長自身もスタッフの空気感や変化を察知しやすくなるでしょう。
でも、「近ければ問題が起こらない」ということではありません。
距離が近くても、院長に何も言えない医院はあります。
<問題の本質とは?>
反対に、スタッフルームが別の建物でも、院長とスタッフの関係性が良い医院もあります。
つまり、本質的な問題は「何メートル離れているか」ではありません。
心理的安全性(意見や不安を安心して伝えられる状態)が確保されているか。
物理的な距離は重要です。
ただ、それだけで組織の問題が解決するわけではありません。
スタッフルームの配置は、あくまでその状態に影響を与える一つの要素として考えるべきだと思います。
いかがでしょうか。
スタッフルームは、広ければいい。綺麗ならいい。院外に借りれば解決する。
そんな単純なものではないと思っています。
人が集まれば、そこには必ずコミュニケーションが生まれます。
そしてスタッフとの物理的な距離が広がると、その分意識しなければ情報の距離も広がります。
大切なのは「どこにスタッフルームを作るか」だけではなく、その配置で起こり得ることまで想定して、組織を設計すること。
私のサポート先でも、スタッフルーム内に愚痴や不満が蔓延した結果、院外に設けていたスタッフルームの運用、そして関わり方そのものを見直して改善した事例もあります。
医院が成長してスタッフが増えてきたときほど、一度考えてみてほしいテーマです。
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